※本ページでは,公益財団法人JKA2023年度研究補助「複数ロボット相互接続型可変構造・可展開ケーブルロボットシステムの研究」の概要広報資料を掲載しています.
1. 研究の概要
本研究補助事業では,平成29・30年度,31・令和2年度,2021・2022年度研究補助で提案し開発してきた網状索道自走ロボットと構造可変型パラレルワイヤロボット,ケーブルの投擲により環境に索道を架設する投擲ロボット,ケーブルをけん引しながら投擲される被投擲ロボットにより構成される構造可変ケーブルロボットシステムのコンセプトを拡張し,さらに網状索道上を走行する自走機同士の相互接続とこれによる索道外へのエンドエフェクタの位置決め,索道へのケーブルの自動結束,フライキャスティングを応用したケーブル投擲,ケーブルを牽引しながら投擲される被投擲機による自動環境固定などを可能とする,複数ロボットによる相互接続型可変構造・可展開ケーブルロボットシステムの研究を行った.
2. 研究の目的と背景
網状索道自走機と構造可変型ワイヤロボット,投擲機と被投擲機による構造可変ケーブルロボットシステムのコンセプトを拡張し,複数の網状索道自走機,ケーブル投擲機,被投擲機,ケーブル自動結束機により構成され,索道構造を自動構築しこの上の自走,投擲・結束・取付による索道構造の展開,これを用いた位置決め等を行うことができる複数ロボット相互接続型可変構造・可展開ケーブルロボットシステムについて,その要素技術開発と統合を行うことを目的とした.
3. 研究内容
3.1 網状索道自走ロボットの高性能化設計
これまでに開発した自走ロボットをベースに,速度や通過可能分岐点,使用環境の制限などについて,より高い運動性能と信頼性を実現する機体の再設計を行うことを目的とした.特にここでは,対候性の向上を目的とした防水化と走行速度の向上を目的とした機体の再設計を行った.
ビデオ1.TCC80DRIIIの防水試験.
3.2 網状索道自走ロボットの分岐点認識・制御法のロバスト化
自走ロボットの自律走行のための分岐点の計測とこれに基づく分岐点通過走行制御法を開発することを目的とした.特に,従来技術では問題のあった後輪の分岐点通過制御について,加速度に基づく後輪分岐点到達検知とそれに基づく分岐点通過制御の開発を行った.
ビデオ2.加速度に基づく後輪分岐点到達検出.
ビデオ3.加速度に基づく後輪分岐点到達検出と分岐点通過制御.
3.3 フライキャスティングを応用したケーブル投擲制御
本項目では,ロボットによる柔軟ケーブルの投擲を通じた新たな索道網の構築を目的とし,柔軟リンクおよびケーブルの運動モデル化と制御系の構築に取り組んだ.これまでに剛体多リンクモデルにより釣竿とケーブルの近似モデルを構築し,非線形制御手法(入力線型化・出力ゼロ化)を導入して,柔軟リンク先端の目標線への追従を実現する制御系を設計した.また,弾性ロッドの挙動をより高精度に再現するために,モデルを低次元化し,同等の運動特性を持つ簡易モデルを用いた制御手法を再構築した.さらに,柔軟ケーブルの静的平衡形状の予測に関しては,Cosserat理論と位相空間解析を組み合わせたアプローチを導入し,複数の平衡解に対応する形状パターンの抽出し,推定した.加えて,構築した制御手法の実機検証も実施し,運動生成および柔軟構造の挙動について実験的に検討した.
ビデオ4.フライキャスティングマニピュレータ.
ビデオ5.柔軟ケーブルの位相空間解析.
3.4 被投擲ロボットの高機能化
本項目では,索道を敷設する際のアンカーとしての役割を果たす被投擲ロボットの高機能化を目的とし,岩肌などの凹凸を有する面に付着可能な新たな被投擲ロボットの設計と製作に取り組んだ.具体的には,対象物に対して適応的に変形し,埋め込まれた針によって対象物に付着するフィングリッパを4本備えた被投擲ロボットを製作し,実験によってその機能を確認した.
ビデオ6.被投擲ロボットの岩石付着実験.
3.5 索道へのケーブル自動結束手法の研究
索道に対して副索となるケーブルを自動で結束する装置を開発することを目的とした.特に,コンストリクターノットを自動結束する装置の設計・製作ならびに自動結束装置を上昇させるための網状索道自走ロボットへの自由度の追加設計・製作を行い,動作確認を実施した.
ビデオ7.コンストリクターノット自動結束装置の動作.
ビデオ8.網状索道自走ロボット(2軸追加モデル)の上昇動作.
3.6 相互接続自走機群のモデリングおよび展開・変形の制御
ケーブルで相互に接続した自走機同士には重力に加え張力が作用するので,従来の静力学を考慮した自走機の運動学計算法はそのまま適用できない.ここでは相互接続時の自走機群の力学モデルを導出し,これを考慮した運動学計算法と軌道計画法を開発する.例として,複数台の自走機にウインチを搭載し,これらのウインチから懸垂させた複数本のケーブルにより懸垂物を操るシステムを考え,これの制御法を開発し評価した.
ビデオ9.2台の自走機による協調搬送制御.
3.7 展開分野の探索(野生動物の近接観察実験)
この項目では,このシステムの展開が可能な応用分野を探索し試験運用を行った.
本研究で開発してきた網状索道自走ロボットは,その運用にはあらかじめ索道の架設が必要となるが,空間的な運動が可能であり,ドローンに比して低速ではあるものの静粛で長時間の運用ができるという長所がある.これを生かし,2022年に引き続き野生動物の生態調査に利用する運用実験を行った.
この実験は,2023年6月に北海道・利尻島にて早稲田大学人間科学部野生動物生態学研究室(風間健太郎准教授)によるウミネコ生態調査の一環として実施した.図に示すように自走機に全天球カメラを搭載し,営巣地を横切るように索道を架設して,抱卵中のウミネコに近接して撮影を試みた.

図.野生動物観察用網状索道自走機 TCC80DRII.
実験の様子と全天球カメラからの映像をビデオ10~12に示す.
抱卵中の親鳥は特に警戒することもなく,数十 cmの距離まで近接しながら抱卵の様子を撮影することに成功した.この結果は今後の動物生態調査における網状索道自走機の技術活用の大きな可能性を示すものと考えられる.
ビデオ10.抱卵中のウミネコへの近接撮影実験.
ビデオ11.抱卵中のウミネコへの近接撮影実験における全天球カメラの映像.
ビデオ12.抱卵中のウミネコへの近接撮影実験における全天球カメラの映像.
3.8 発展的研究開発項目
上記に関連する,さらなる性能向上のための要素技術や,更なる拡張のための研究項目について検討を行った.
特にここでは,スラスタ併用パラレルワイヤロボット(Thrustered Cable-Suspended Parallel Robot)についての試作検討を行った.
4. 本研究が実社会にどう活かされるか―展望
本研究の成果は,中長期的には,山林内や災害現場等の非整備環境における継続的な物資運搬や見回りなどに有用な,高効率・高速で信頼性の高い移動ロボットの実現,また障害物の多い自然環境や災害現場等における調査や救助,作業に有用な,高出力な作業移動ロボットの実現というイノベーションとなる.これらの技術は災害対応ロボットや廃炉作業ロボット,除染作業ロボット,自然環境モニタリングロボット,農林業用ロボットに応用可能であり,これらのロボットシステムの実用化のために本研究の成果は不可欠である.
本研究の成果を踏まえ,本研究の共同研究者である遠藤央特任准教授(東京科学大学),石井裕之教授(早稲田大学),衣川潤准教授(福島大学)と引き続き共同研究の継続に向けた議論を行っている.具体的には,ケーブルにより相互接続された複数移動ロボットによる可変構造・可展開システム(Reconfigurable-deployable robot system by cable-interconnected multiple robots)の実用化のための技術開発と展開を目指し,網状索道自走機,索道の架設のためケーブルの投擲を行うロボット,ケーブルをけん引しながら投擲され環境への着脱が可能な被投擲ロボット,自走機に搭載され走行中の索道に新たにケーブルを結束できる自動結束機により非整備環境において投擲・結束・取り付きによる空間的な網状索道の自動構築と展開,この上の自走,ここからの降下による索道下への位置決め,複数自走機からのケーブル操出によるエンドエフェクタや被投擲機の位置決め等を行うことができるフィールドロボットシステムの技術開発を進めてゆく.
実用化については,引き続き野生動物のモニタリング運用実験,工場等での運用実験を進め,実用化に向けた課題の洗い出しと技術開発計画への落とし込みを続けていく.
5. 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ
研究代表者の菅原雄介は,ロボットシステム設計学の構築と展開をライフワークとしており,この中で「網状索道自走ロボット」と「構造可変型ハイブリッドワイヤ機構」は,まったく新たなロボットシステムの提案を行うという意味で大きな意味のあるものである.また,パラレルワイヤ機構を軌道上を自走する作業移動ロボットとして応用するコンセプトは特に,ドローンやSLAMなど最近急速に発展してきているフィールドロボティクスの分野に対するメカニズム研究者としての挑戦である.
共同研究者の遠藤央は,これまでの研究において持続可能性をキーワードとしたロボット技術の応用に取り組んでおり,湖沼や森林のモニタリング等への応用が可能である本研究はその流れに位置付けられる.またワイヤの特性に着目したパラレルワイヤ機構の研究や移動ロボットを用いたシステムの研究にも取り組んでおり,これらの基礎技術の応用研究として重要な意味を持つ.
共同研究者の石井裕之は,自然や生物と共生するロボット技術の開発に取り組んでおり,近年,森林における野生動植物の観察や保全のためのロボットの開発に特に注力している.本研究において開発を進める網状索道自走ロボットは,森林内での新たな移動技術として極めて有望であり,またこれまで開発してきた環境モニタリングロボットとの連携も期待され,ロボットを用いた森林モニタリングを加速する重要な研究と位置付けられる.
共同研究者の衣川潤は,これまでにパラレルワイヤ駆動装置のキャリブレーション手法および制御方法について研究しており,近年では福島県の豊かな森林を守るためのロボット技術開発への応用に取り組んでいる.本研究において開発を進める網状索道自走ロボットは,森林整備への活用に大きな期待が寄せられており,ロボット技術による自然環境保全のために重要な研究と位置付けられる.
6. 本研究にかかわる知財・発表論文等
【論文】
- Andres Osorio Salazar, and Yusuke Sugahara, Temperature gradient for improving the output non-linearity in shape memory alloy actuators, Smart Materials and Structures, Vol. 33, No. 8, 085046, July, 2024.
- 菅原雄介,網状索道自走ロボット,日本ロボット学会誌,Vol. 41, No. 10, pp. 850-853, 2023.
【国際会議(査読付)】
- Ryosuke Hakamata, Oscar Altuzarra, Mitsuru Endo, and Yusuke Sugahara, Static Equilibrium Analysis Based on Cosserat Theory and Phase Space Analysis for String-shaped Flexible Elements, 3rd International Conference of IFToMM for SDG (I4SDG2025), Villa San Giovanni, Italy, June, 2025. (印刷中)
- Andres Osorio Salazar, and Yusuke Sugahara, Temperature-Gradient-Based Partial Activation of Wet SMA Actuators for Displacement Output Linearity, Proceedings of the 2024 IEEE/SICE International Symposium on System Integration (SII), Ha Long, Vietnam, 2024, pp. 422-428, doi: 10.1109/SII58957.2024.10417629.
- Kazuki Hayashi, Yusuke Sugahara, and Yukio Takeda, Experimental Study on Thrustered Cable-Suspended Parallel Robot for Collaborative Task, Proceeding of the 6th International Conference on Cable-Driven Parallel Robots (CableCon2023), pp. 419-429, Nantes, France, June 2023. In: Caro, S., Pott, A., Bruckmann, T. (eds) Cable-Driven Parallel Robots. CableCon 2023. Mechanisms and Machine Science, vol 132. Springer, Cham.
【国内会議予稿】
- 袴田遼典,Oscar Altuzarra,遠藤央,菅原雄介,Cosserat theoryに基づく紐状要素モデルの順解析,第42回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2024),2C2-03,大阪府,2024.
- 岡本康太,袴田遼典,齊藤天丸,藍野稜大,宮田佳奈,菅原雄介,干場功太郎,武田行生,網状の索道を自走するロボットの研究(加速度に基づく分岐点到達検出手法),日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2024(ROBOMECH2024),2P1-N05,栃木県,2024年5月.
- 藍野稜大,岡本康太,宮田佳奈,浅香拓,森田瞭平,菅原雄介,武田行生,網状の索道を自走するロボットの研究(耐候性の向上のための防水化),日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2024(ROBOMECH2024),2P1-N04,栃木県,2024年5月.
- 馬場星明,袴田遼典,藍野稜大,菅原雄介,遠藤央,石井裕之,武田行生,網状の索道を自走するロボットの研究(索道分岐点の自動認識手法の開発),第41回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2023),3D4-04,2023.
- 一條敦弘, 菅原雄介, 馬場星明, 遠藤央, 武田行生,網状の索道を自走するロボットの研究(ケーブル変形とロボットの走行性能を考慮した網状索道架設計画法の開発), 第41回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2023),1D2-01,2023.
- 袴田遼典,遠藤央,菅原雄介,フライフィッシングの原理を応用した小型低出力マニピュレータによる投擲の研究(非線形制御を用いたマニピュレータ関節軌道の生成),日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2023,愛知県,2023年.
- 秋元快成,衣川潤,遠藤央,菅原雄介,網状索道自走ロボットのための副索始点構築を行う索道ケーブル結束装置の試作,ロボティクス・メカトロニクス講演会2023,愛知県,2023.
【招待講演など】
- 菅原雄介,ロボットの月面での利用について,第9回重力天体(月火星)着陸探査シンポジウム,神奈川県,2025年1月.
- Yusuke Sugahara, Robotic Mechanisms for Automation on Construction Site, BIM & ROBO EXPO 2024, Aachen, Germany, August 2024.
- Yusuke Sugahara, Robotic mechanisms for large-scale automation, 2nd French- Japanese Workshop on Additive Manufacturing, Tokyo, Japan, May, 2023.
7. 補助事業に係る成果物
(1)補助事業により作成したもの
無し
(2)(1)以外で当事業において作成したもの
前述の発表論文等
8. 事業内容についての問い合わせ先
所属機関名:東京科学大学
(トウキョウカガクダイガク)
住 所:〒152-8552
東京都目黒区大岡山2-12-1(i6-15)
申 請 者:教授 菅原雄介(スガハラユウスケ)
担当部署: 工学院 機械系 機能システム学分野
(コウガクイン キカイケイ キノウシステムガクブンヤ)
E-mail: info[於]msd.mech.e.titech.ac.jp ([於]→@)
URL: http://www.msd.mech.e.titech.ac.jp/jp/